開発費40億円の超大作MMORPG『イカロスオンライン』はなぜ同期の黒い砂漠に勝てなかったのか

⚠ サービス終了

「イカロスオンライン」は2022年8月31日をもって日本サービスを終了しました。
海外版「Riders of Icarus」も2025年5月15日に終了しています。

以下は過去の紹介記事として残しています。

制作費40億円。開発期間10年。韓国のWEMADEIOが社運をかけて送り出したMMORPG「イカロスオンライン」は、モンスターを捕まえて背中に乗り、大空を自由に飛び回れるという、当時としては破格のコンセプトで登場した。

日本では2015年4月28日にサービスを開始し、約7年間にわたって運営が続いた。しかし最終的には過疎とコンテンツ不足に沈み、2022年8月31日にサービス終了。その後も海外版「Riders of Icarus」が細々と生き延びていたが、それも2025年5月15日に幕を閉じた。全世界のサーバーが完全に停止し、イカロスの空には、もう誰も飛んでいない。

この記事では、イカロスオンラインが何を目指し、何が素晴らしくて、なぜ消えていったのかを振り返る。プレイヤーたちが残した33件のレビューから声を拾い、このゲームの栄枯盛衰を記録として残しておきたい。

 

目次

イカロスオンラインとは ─ 40億円の翼を持ったMMORPG

イカロスオンラインのゲーム画面

イカロスオンラインは、Unreal Engine 3で描かれたファンタジーMMORPGだ。開発元のWEMADEIOは韓国の中堅ゲーム会社で、制作費40億円・開発期間10年という、当時の韓国MMOとしては異例の規模でこのプロジェクトに取り組んだ。

その力の入れようは韓国国内でも認められ、「韓国ゲーム大賞 最優秀賞」「グラフィックス賞」をダブル受賞している。海外展開されたバージョン「Riders of Icarus」はSteamで同時接続ピーク16,814人を記録し、累計プレイヤー数は100万人を突破した。数字だけ見れば、決して失敗作ではなかった。

プレイヤーは8つのクラスから職業を選び、キャラクターを育て、広大なフィールドでクエストをこなし、ダンジョンに挑む。ここまでは王道のMMORPGそのものだ。レベルを上げ、装備を集め、パーティを組んでボスに挑む。この基本構造は他の韓国産MMOとほぼ変わらない。

だがこのゲームには、他のどのMMOにもない決定的な独自要素があった。「フェローシステム」と呼ばれるモンスター捕獲・騎乗の仕組みだ。このシステムこそが、イカロスオンラインをイカロスオンラインたらしめていた核であり、そして皮肉にも、このゲームの限界を浮き彫りにした要素でもある。

 

フェローシステム ─ 唯一無二の「捕まえて、乗る」体験

イカロスオンラインのフェローシステムでドラゴンに騎乗して空を飛ぶ場面

フィールドを歩いていると、そこら中にモンスターがいる。それ自体はどのMMOでも同じだ。でもイカロスでは、そのモンスターの背中に飛び乗り、暴れる相手にしがみつきながら「テイム」(捕獲)することができた。成功すれば、そのモンスターは自分の「フェロー」──仲間になる。

フェローの多彩な役割

フェローは単なる移動手段じゃなかった。地上騎乗、空中騎乗、ペット、戦闘パートナーと、一匹のモンスターが複数の役割を果たす奥深い設計になっていた。

ドラゴンの背に乗って空を飛ぶ。ペガサスで雲の上を駆け抜ける。巨大な熊にまたがってフィールドを疾走する。小さなフェローをペットとして連れ歩き、戦闘では召喚して一緒に戦わせる。「あのモンスターにも乗れるのか」「あの巨大なやつも捕まえられるのか」という驚きそのものが、フィールド探索の最大のモチベーションだった。

フェローにはそれぞれ固有のスキルやステータスがあり、単に見た目が違うだけではなかった。地上移動が速いフェロー、空中機動力に優れたフェロー、戦闘補助に特化したフェロー。自分のプレイスタイルに合ったフェローを見つけて育てるという、いわば「もう一つのキャラクター育成」が存在していた。

テイムの緊張感

テイムのプロセスには独特の緊張感があった。対象のモンスターに近づき、背中に飛び乗ると、QTE(クイックタイムイベント)が始まる。画面に表示されるボタンを正確なタイミングで押しながら、暴れるモンスターに振り落とされないように耐え続ける。

強力なフェローほど捕獲難度は跳ね上がる。レアなドラゴン型フェローを捕まえるために何十回と挑戦し、ようやく成功した時の達成感──それはレイドボスを倒した時とはまた違う種類の喜びだった。「あの手強かったモンスターが、今は自分の背中で翼を広げている」という体験は、他のゲームではなかなか味わえないものだ。

ポケモンのように「集める楽しさ」があり、モンスターハンターのように「挑む緊張感」があり、たまごっちのように「育てる愛着」がある。このハイブリッドな楽しさが、フェローシステムの真髄だった。

 

空中戦闘 ─ 地面を離れた瞬間の衝撃

このゲームの真価は、空にあった。

飛行系フェローに乗って地面を蹴り、上空に飛び立つ。すると地上とはまったく違う世界が広がっていた。空中には専用のモンスターが飛び交い、地上からは見えなかった浮遊島やダンジョンの入り口が姿を現す。空でしか行けない場所、空でしか出会えない敵、空でしか手に入らない素材。イカロスの世界は、文字通り「上にもう一つのフィールド」を持っていた。

空で戦うという革新

そして何より衝撃的だったのが、空中での戦闘がしっかり実装されていたことだ。

2015年当時、空中戦闘をまともに遊べるMMORPGはほぼ存在しなかった。飛べるゲームはあった。でも「飛んで戦える」ゲームとなると、選択肢は極端に少なかった。フェローの背中から魔法を放ち、急降下して敵のドラゴンをかわし、旋回しながらスキルを叩き込む。三次元的な動きが要求される空中戦は、地上戦とはまるで別のゲームのような手触りがあった。

Unreal Engine 3で描かれる空と雲の表現も見事だった。朝焼けに染まる雲海の上を飛ぶ時、夕暮れのフィールドを見下ろしながら旋回する時、このゲームのグラフィックは確かに一級品だった。韓国でグラフィックス賞を受賞したのも頷ける完成度で、スクリーンショットの映えるゲームとしても人気があった。

空中戦闘の限界

ただし、正直なところ空中戦闘には粗もあった。操作感がもっさりしていて直感的とは言い難い部分があり、空中でのターゲティングが地上ほどスムーズではなかった。空中戦闘がメインコンテンツとして発展し切れなかったのも事実で、結局は地上のダンジョン攻略が中心になりがちだった。「もっと空中戦のコンテンツがあれば」という声は、サービス期間を通じて絶えなかった。

 

 

プレイヤーたちの声 ─ 愛と失望の記録

イカロスオンラインには、確かに熱狂的なファンがいた。同時に、深い失望を味わった人も少なくない。Steamレビューやコミュニティ、SNSに残された声を拾ってみたい。このゲームがどんな体験を提供し、何が足りなかったのか。プレイヤー自身の言葉が、いちばん正確に物語っている。

「初めてペガサスに乗った時の感動」

初めてペガサスに乗った時の感動は今でも覚えている。地面から浮き上がって、雲の上に出た瞬間、本当に鳥肌が立った。あの体験だけで、このゲームに出会えてよかったと思える。

フェローシステムの体験価値は本物だった。「モンスターに乗って空を飛ぶ」というコンセプトを、ここまで丁寧に作り込んだゲームは他にない。レベルを上げていくなかで初めて飛行フェローを手に入れ、離陸した瞬間の高揚感──この体験一つだけでイカロスを覚えているというプレイヤーは相当数いるはずだ。実際、Steamのレビューを読んでいくと、低評価をつけているプレイヤーですら「飛行体験だけは素晴らしかった」と書いているケースが目立つ。

「7,928時間プレイヤーの告白」

7,928時間プレイした。それだけの時間を費やしておいて言うのもなんだが、このゲームは良くない方向に進み続けた。最初の数百時間は本当に楽しかった。でも開発が同じ問題を何年も放置し続けた。

約330日分をこのゲームに捧げた人の言葉は重い。「楽しかった」と「良くなかった」が矛盾なく同居しているのが、このゲームの本質を物語っている。最初の体験が強烈だからこそ長く付き合い、長く付き合ったからこそ失望も深くなる。7,928時間という数字は、そのまま期待と裏切りの重みだ。

「diet TERA, which is diet AION, which is diet WoW」

diet TERA, which is diet AION, which is diet WoW ── 要するに、何もかもが本家の劣化版。フェローシステムだけが唯一のオリジナリティだった。

海外プレイヤーによる辛辣な評価だが、的を射ている部分がある。クエスト設計やダンジョン構造は、先行するMMORPGの定型をほぼそのまま踏襲していた。「次のエリアに行って、NPCに話しかけて、指定のモンスターを倒して、報告して、次のクエストへ」。この繰り返しは韓国産MMOの定番だが、TERAやAIONがそこにアクション性やストーリーで味付けしていたのに対し、イカロスはフェローシステム以外の部分で明確な差別化ができていなかった。

「5年ぶりにログインしたら何も変わっていなかった」

5年ぶりにログインしてみた。驚いたのは、ほとんど何も変わっていなかったこと。同じUI、同じ問題、同じバグ。切なくなった。

この声は、後述する「衰退の理由」に直結する。5年間のアップデートで根本的な改善がなかったということは、開発チームが既にこのゲームに十分なリソースを割けていなかった可能性が高い。懐かしさに駆られて久しぶりにログインした元プレイヤーが見たのは、時間が止まったまま過疎だけが進んだ世界だった。

 

なぜ衰退したのか ─ 4つの致命傷

40億円をかけ、グラフィックス賞まで受賞した大作MMOが、なぜ7年で終わったのか。「もったいなかった」で片付けるには惜しいゲームだから、衰退の要因を丁寧に整理してみたい。

1. 過疎の加速 ─ MMOと呼べない人口

過疎すぎてMMOと呼べない。パーティ募集をかけても1時間待って誰も来ない。ソロゲーを強制されるMMORPGに何の意味があるのか。

MMORPGにとって人口減少は、ゲームバランスの崩壊よりもはるかに致命的だ。パーティが組めないからダンジョンに行けない。ギルドのメンバーが減って活動できない。対人戦のマッチングが成立しない。経済が回らないからマーケットが死ぬ。

そして人が減れば「人がいないゲームをやっても仕方ない」と残った人も離れ、さらに過疎が加速するという負のスパイラルに突入する。イカロスはサービス開始から比較的早い段階でこのスパイラルに陥っていたとされる。Steamの同時接続数も、ピークの16,814人からサービス末期には数十人にまで落ち込んでいた。

2. 職業格差 ─ バランス崩壊の放置

致命的な職業格差。特定のクラスじゃないとエンドコンテンツに参加すらできない。好きな職業で遊べないMMOは終わっている。

8クラスという選択肢の広さは魅力だが、裏を返せばバランス調整の難しさと直結する。イカロスでは特定クラスが極端に優遇される(あるいは冷遇される)状態が長期間にわたって放置されていた。

エンドコンテンツのレイドに参加するために「あのクラスじゃないと無理」という空気ができあがると、他のクラスで遊んでいたプレイヤーは居場所を失う。キャラクターを作り直すか、我慢するか、ゲームを辞めるか。多くの人が三番目を選んだ。

3. コンテンツ不足と課金圧の悪循環

エンドコンテンツに到達した後の「やること」が圧倒的に少なかった。新しいダンジョンや新フェローの追加ペースが遅く、同じコンテンツの周回を延々と強いられる日々。MMORPGの寿命は「エンドコンテンツの充実度」で決まると言っても過言ではないが、イカロスはここが決定的に弱かった。

さらに追い打ちをかけたのが課金設計だ。強化素材やレアフェローの入手がガチャ(課金ランダム要素)に偏っており、無課金・微課金プレイヤーとの差が広がっていった。コンテンツが少ないのに強くなるには課金が必要、でも課金してもやることがない──この悪循環が、古参プレイヤーの離脱を加速させた。

4. 競合タイトルという巨大な壁

2015年前後のMMO市場は激戦区だった。黒い砂漠がアクション戦闘と広大なオープンワールド、充実した生活コンテンツで急速に勢力を拡大し、FF14は「新生エオルゼア」以降のアップデートで世界的な人気を確立していた。

イカロスの不幸は、フェローシステムという強力な独自要素を持ちながら、それ以外の部分──戦闘、クエスト、エンドコンテンツ──で競合に太刀打ちできなかったことだ。「フェローシステムは最高。でもそれ以外は黒い砂漠でいい」「空は飛べるけど、飛んだ先にやることがない」。こうした評価が広がるにつれ、プレイヤーは競合タイトルに流れていった。

 

NFT化という最後の賭け ─ Raniaトークン97%暴落の顛末

2022年の日本サービス終了後、WEMADEIOはイカロスのIPを使って新たな展開を試みた。ブロックチェーンゲームへの転換だ。

独自トークン「Rania」を発行し、NFT要素を組み込んだ「Riders of Icarus」の新バージョンを展開。フェローをNFTとして取引できる仕組みを導入し、ゲーム内経済とクリプト経済を融合させる──というのが構想だった。

しかし結果は壊滅的だった。Raniaトークンの価格はピークから97%暴落

もともとの設計に問題があった。ゲームとしての面白さよりも投機性が前面に出た構造では、「ゲームを楽しみたい人」も「投資で儲けたい人」も満足できない。既存のイカロスファンからは「思い出のゲームで金儲けをするな」と反発を受け、クリプト界隈からは「ゲームとしてのクオリティが低すぎる」と見放された。両方のコミュニティから拒絶されるという、最悪のパターンに陥った。

フェローシステムという素晴らしいアイデアを持ちながら、そのIPの最後の使い方がNFTトークンだったことは、何とも皮肉な話だ。「あのフェローたちをNFTにして売り払う」という姿は、かつてフェローと空を駆けたプレイヤーの目にはどう映っただろうか。

 

「あの体験」の面影を探して ─ 似た体験ができる現役ゲーム

イカロスオンラインが完全に終わった今、あのフェローシステムや空中戦闘に近い体験ができるゲームはあるのだろうか。率直に言って、完全な代替は存在しない。モンスターを捕まえて、育てて、背中に乗って空を飛び、空中で戦えるMMORPGは、イカロスの後に現れていない。

ただ、イカロスの各要素を部分的に引き継ぐタイトルはいくつかある。

LOST ARK ─ 韓国産MMOの現在地

イカロスと同じ韓国産MMORPGだが、こちらは世界的な大成功を収めた。見下ろし視点のアクションRPGスタイルで、戦闘のテンポと爽快感はMMO随一。膨大なエンドコンテンツと定期的なアップデートで、「韓国MMOの集大成」と呼ばれることも多い。モンスター騎乗の要素はないが、MMORPGとしての総合的な完成度を求めるなら現時点での最有力候補だ。イカロスが達成できなかった「エンドコンテンツの充実」がここにある。

黒い砂漠 ─ イカロスのライバルだった生存者

イカロスと同時期にサービスを開始し、結果的にイカロスから多くのプレイヤーを奪ったタイトル。野生の馬を見つけて縄で捕まえ、調教して自分だけの愛馬に育てる──この馬捕獲・育成システムは、フェローシステムに通じる「野生の生き物を手懐ける」体験を提供している。戦闘のアクション性とグラフィックの美しさは2026年現在でもトップクラスで、生活コンテンツの豊富さも見事。イカロスで「フェロー以外の部分に不満があった」人には、最もフィットするかもしれない。

FF14 ─ 盤石の王者

飛行マウント(騎乗生物)の種類が非常に豊富で、ドラゴンや鳥、機械仕掛けの乗り物まで多種多様。空を飛ぶ楽しさという一点では、イカロスに通じるものがある。何より、「人がいるMMORPG」という一点で、過疎に苦しんだイカロスとは対極の体験が待っている。パーティ募集をかければ人が集まる。ギルドは活気がある。新しいコンテンツが定期的に追加される。イカロスが失ったもの全てがここにある。ストーリー重視のプレイヤーにも向いている。

ラグナロクオンライン ─ もう一つの「長寿MMO」の行方

イカロスとはジャンルもグラフィックもまるで違う2Dの古典MMORPGだが、「長く愛されたオンラインゲームがどう変化していったか」という視点で見ると興味深い共通点がある。ペットシステムの充実度ではこちらも負けておらず、モンスターを捕まえて育てる楽しさを味わえる。20年以上続く長寿タイトルとして、イカロスが辿れなかった「生き延びる」道を歩んでいる。

 

振り返って ─ 翼を持ったまま沈んだゲーム

イカロスオンラインの最大の問題は、フェローシステムが素晴らしすぎたことかもしれない。

「モンスターに乗って空を飛ぶ」という体験があまりに強烈で、それ以外の部分──クエスト設計、クラスバランス、エンドコンテンツの量と質、課金設計、運営の方向性──がどうしても見劣りした。一本足打法のまま、改善も革新もないまま時間だけが過ぎた。気づいた時にはフィールドに誰もいなくなり、空を飛んでも一緒に飛ぶ仲間がいなくなっていた。

ポテンシャルはあったのに、もったいない。

多くのプレイヤーが残したこの一言に、このゲームの全てが集約されている。

40億円と10年をかけて作られた翼は、確かに美しかった。フェローシステムは、今なお「MMORPGで最も独創的な仕組みの一つ」として語り継がれている。あの体験を超えるモンスター騎乗システムは、2026年現在もまだ現れていない。

でも翼だけでは、ゲームは飛び続けられなかった。

2026年にはWEMADEIO関連の新作「AION2」がリリース予定とされている。AIONもかつてイカロスと同様に空中戦闘を売りにしたMMORPGだった。イカロスの教訓がどこまで活かされるのか、あるいはまた同じ轍を踏むのか。かつてイカロスの空を飛んだプレイヤーたちは、きっとどこかでその行方を見守っている。

あの空の感動を知っている人たちだから。

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